対話型ファシリテーションの手ほどき [問題解決につながる]
「対話型ファシリテーションの手ほどき」
多くの人は本書によって「対話」そして「ファシリテーション」の考え方を一変させる可能性があるだろう。わずか100ページ超の本であるものの、その活用範囲は実に広く、国際協力から日々の日常生活まで使えるものだ。
著者は中田豊一氏。国際協力や地域福祉の対人援助に携わっている方々に、この研修を行っている。本の表紙には「なぜ?」と聞かない質問術とある。近年「なぜ」という質問が切り札のように出てくることが多いが、これは全く違うアプローチであり、成果が本当に上がるのかと興味を持った。
著者の中田氏は東大卒のエリートと思いきや、様々な国際協力やNGOなど非常に厳しい現場で、実績を積んでこられた方で、行間から実体験に基づく重みと思いを感じた。
「対話型ファシリテーション」とは事実質問によるやりとりを通して、相手に気づきを促す手法。
その結果として、問題を解決するために必要な行動変化を、当事者自らが起こすように働きかける。事実を聞いていくので、カンタンと思いがちだが、実際にやってみると、ついつい「なぜ」とか「どうして」とか言いたくなる。
事実を聞くつもりでいても、今までの習慣や先入観から相手の意見や考えを聞く質問、自分自身の持論に誘導する質問を(意識せず)してしまう。
母親が子供を医者に行く事例がある。
医者が、お腹が痛いという子供を連れてきた母親に、「いつから痛いのですか?」と尋ねるのは事実質問ではない。そうではなく、「お子さんが痛みを訴え始めたのはいつですか」というのが母親に対する事実質問になる。
母親が気づく前に痛み始めているかもしれないし、子供本人に「いつから痛いのか覚えている?」と聞けば事実質問になる。
この事実質問を心がけると、当事者性に敏感になる。確かにそうだが、すぐにできるか。
「それはいつですか」「あなたは最初になんと言ったのですか」というように、事実質問を連ねていくと、相手は自然と思い出すことによって、そもそもの問題が明らかになる。
すると自分の内面からやる気が湧いてきて、前向きになれる。これがファシリテーションの力と言える。
本書はインドネシアのバジョ村でのゴミ処理の事例という海外の事例から、ごくごく身近な中田氏自身の息子さんのやりとりまで、幅広く共感できる事例が満載だ。私も普通ならこの本の分量ならすぐに読み終わるし、テクニックとしてもそれほど難しくなくすぐに使えると思っていた。
しかし本書は実に考えさせる本で読了まで時間がかかった。実際に使おうとすると、今までの思考習慣から「なぜ」と言いたくなるので、本書にある訓練は確かに必要だ。
将棋はお互いに一手一手を打ち合いながら、相手の王様を攻めるゲームだが、この事実質問はまさにあの羽生さんのように自然な一手一手を積み重ねていきながら、相手の玉(ぎょく)=真因(問題の本質)に迫っていくようなそんな静かな迫力を感じた。習得すれば自分にも周囲にも効果が高いこの対話型ファシリテーションを、本書を通じてぜひ身につけたいと思う。
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